本州最西端のブックマンション「繁盛」記
ローカル紙に5回の予定で不定期連載している文章です 1回目の掲載分を紹介します。
本州最西端のブックマンション「繁盛」記 ①
エルピスしものせき店主 熊野 讓
客・・「こんな格調高い文学書や政治・経済・思想・歴史の本を並べて、ここの誰が読むと思うんか。安倍晋三を生み出してきた町でよ」
店主・・「・・・・・」
客・・「俺が安倍はとんでもない奴だとどれだけ話してもここの人間は誰も耳を貸さん。本とか新聞とか読まん連中ばっかりなんよ。だから簡単に騙されるんよ。本屋も潰れるはずよ。図書館にも人はおらんし、ネトウヨの喜びそうな本ばかり並べちょる」
店主・・「・・・・・」
しばらくお客さんの憤慨・慨嘆・ボヤキが続きました。そして最後は 「あんたは古本屋のオヤジにしては腰が低いのう。神田の古本屋のオヤジ連中とは違うわ」と言いながら冒頭の政治・経済系統の本を数冊手にして店番の卓へ持ってこられました。
店主の僕は「おおきに。またたくさん買って帰ってください」と頭を下げました。
昨年の12月16日、下関市豊浦町の国道191号線沿いに「本と人の交差点 ブックマンション エルピスしものせき」という長い名前のブックマンションを開店しました。この原稿は7月に書いているのでまずは半年潰れずにやって来られました。その「繁盛」ぶりを報告して超低空飛行の古書店の応援をお願いする次第です。
皆さんお住いの地域でもきっと同じだと思いますが、全国どこの街も、特に地方都市から書店がどんどん姿を消しています。僕は下関の吉見という響灘沿岸地域住んでいますが、地域には書店はありません。一番近い書店は車で20分南下の大型商業施設内の全国チェーン店です。北上すると響灘沿岸には書店はないと思います。豊北町の内陸部と豊田町にそれぞれ一軒あるようですが、地元の人に聞くと「まだやってんの」「いつもカーテン閉まってるよ」という状況です。その先はおそらく長門市の中心部まで書店はありません。
原因ははっきりしています。本を読む人が減りに減って書店ではメシを食っていけなくなったからです。読書人口が減ったのは教育政策も影響しています。日本語(国語)教育よりも英語(外国語)教育の方が大事だとして、国語の授業時間数を減らしたり、文学作品を教科書から減らしたり、僕から見たら亡国の路線まっしぐらです。
先日のニュースですが、「年に一冊も本を読まない大学生が増加している」というものがありました。そこで湧いてくるの疑問は「卒業論文とかどうしているんだろう」です。答えは「チャットGPTなどの生成AIに書かせて、ウイキペディアで補強するから大丈夫」といものでした。大学教員もその論文が生成AIに拠るものかどうかを識別できないと言われていましたが、今は学生本人が創作した論文か否かを判定するアプリが開発されていると聞きました。出版文化の危機、読書活動の危機という表現は大げさではなくなりました。
この読書活動の危機は僕の住んでいる地方都市ではもっと感じることができます。書店が消える、公共図書館はあっても(ないところも多い!)貧相、ある程度の読書文化活動を担えていた学校の消滅などなど文化的生活の保障となるものがどんどんなくなっています。僕の住んでいる田舎の本好き、読書人は大きな声は出しませんが嘆いていることはたしかです。。
本好き・読書人・書店・図書館・学校をめぐるこうした状況を憂えた人たちが新たに生み出したのがブックマンション形式の古書店です。ひと棚ひと棚店主が違うから売りに出される本も違う。それぞれの読書遍歴が個性あふれる本棚を生み出すという発想です。このひと棚店主をマンション入居者に見立てたネーミングが「ブックマンション」です。
本好きが集まってみんなで運営する新しいタイプの古本屋と言えばいいでしょうか。全国で広がっています。今年初めで全国で大小80店舗くらいあるようです。僕が始めた「エルピスしものせきは山口市内の「HONYAらDO」さんに続いて県内二軒目です。
店舗は下関の郊外、旧豊浦町のJR川棚温泉駅から車で3分、国道191号を下関側に南下したところにあります。いまのところ「本州最西端のブックマンション」と自称しています。マンション入居者は開業時点で本屋24室、ハンドメイド雑貨6室の30人です。月一回の店番が義務です。賃貸料は月1000円で運営しています。開業資金を別にすれば経常利益はわずかながら黒字です。もちろん確定申告とか関係のない砂粒のような店です。
本紙読者の皆さんも「熊野が何か始めたらしい」と来店お買い上げくださった方が何名もおられます。紙面を借りてお礼を申しあげます。おかげさまで開店以来売り上げゼロの日はなくて、冗談ですが「繁盛、繁盛」と笑っていました。
が、開店半年の最近は売り上げゼロの日がぽつぽつと記録されるようになりました。無論儲けたいと思ってやっているわけではないですが、こういう運動は赤字でもOKというのでは早晩閉店です。商売でも運動でも何でも発展的に持続させることが大事です。それは組合運動や市民運動で十分学んできました。経験や知恵、ネットワークを生かして「超低空飛行」でも「継続は力」で人生初の起業を楽しみます。この間、「社長」と呼ばれました。国内では初の経験です。
編集部が許してくれればあと数回寄稿します。よろしくお願いします。